国連の世界人権宣言の「教育への権利」とは?ー国際人権規約の「教育への権利」との比較ー

1. はじめに

 日本国憲法(1946年)の教育権は、「教育を受ける権利」である。しかし、「教育」が定義されていない。それに対して国際人権の教育権は、「教育への権利」である。「教育への権利」では、「教育」が定義されている。

 しかし、日本では憲法の「教育を受ける権利」と国際人権の「教育への権利」の相違は十分に意識化されて来なかった可能性もある。例えば、世界人権宣言の外務省の「仮訳文」でも「教育への権利(the right to education)」は、「教育を受ける権利」と訳されている(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html)。

 日本では「教育への権利」は、教育法学界や司法界等を中心に研究されて来た。しかし、同じ国際人権でも国連の世界人権宣言(1948年)の「教育への権利」と法的拘束力がある国際人権規約(1966年)の「教育への権利」では内的差異もある。

 世界人権宣言の「教育への権利」を国際人権規約を比較して、共通点と相違点を明らかにする。

2. 世界人権宣言第26条「教育への権利」

1 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。

2 教育(Education)とは、人間的パーソナリティ(human personality)の十全な発達(full development)並びに、人権及び基本的自由のリスペクトの強化を指向するものとする。教育は、すべての国民の間及び人種的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好(friendship)を促進し、並びに、平和の維持のための国際連合の活動を推進するものとする。

3. 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

https://www.mofa.go.jp/policy/human/univers_dec.html

3. 国際人権規約の「教育への権利」

1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。

2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。(a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。(d) 基礎教育は、初等教育を受けなかった者又はその全課程を修了しなかった者のため、できる限り奨励され又は強化されること。(e) すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。

3 この規約の締約国は、父母及び場合により法定保護者が、公の機関によって設置される学校以外の学校であって国によって定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児童のために選択する自由並びに自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。

4 この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行なわれる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_004.html

4. 両者の比較

(1)共通点

 ①初等教育・・・無償の義務教育。

 ②教育(Education)・・・人間的パーソナリティ(human personality)の十全な発達(full development)並びに、人権及び基本的自由のリスペクトの強化を指向するもの。

 ③高等教育・・・分配基準=「能力(merit)」。

(2)相違点

 ①世界人権宣言・・・

 (a)「中等教育」がないこと。

 (b)親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有すること。

 ②国際人権規約・・・

 (a)「教育」=人格の尊厳意識の十分な発達と自由な社会への効果的な参加。

 (b)中等教育への無償教育の漸進的導入。

 (c)高等教育への漸進的導入。

 (d)父母及び場合により法定保護者が、公の機関によって設置される学校以外の学校であって国によって定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児童のために選択する自由並びに自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重すること。

 (e)1の原則の遵守等の条件で、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げないこと。

5. おわりに

 現在では世界人権宣言は、国際慣習法と考えられている。国際人権規約は、法的拘束力がある国際法である。1979年、日本政府も国際人権規約を批准した。しかし、世界人権宣言の「教育への権利」を国際人権規約の「教育への権利」を比較すると共通点と相違点がある。相違点の一つは、世界人権宣言の「教育への権利」には「中等教育」がない点にある。

 現在の日本の公教育制度は、中等教育が質を伴わずに量的に拡大して、文科省も中等教育、特に後期中等教育を再編を検討している。中等教育がない公教育制度のデザインは、参考になる可能性もある。

  

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