日本の外交と内政の分裂ー「人権」観を巡ってー

1. はじめに

 外務省の「外交=人権外交」では、国際人権基準に依拠して「普遍的価値としての人権」が重視されているが、内政では人権は「思いやり」等のような感情に矮小化される傾向もある。

 そうすると日本の外交と内政では「人権」観が分裂し、人権政策の一貫性や整合性が損なわれている可能性がある。

2. 日本の外交ー外務省の人権外交の場合ー

 冷戦後の1993年、国連は人権の普遍性を確認した。1995年以降、国連は人権教育政策を展開した。外務省は国連の人権教育政策に積極的にコミットした。

 外務省は2005年以降の国連の「人権教育のための世界計画」にも共同提案国であり、その「人権」観とは次のように国際人権基準に依拠している。

1995~2004年 人権教育のための国連10年。

2004年4月 第59回国連人権委員会において、「人権教育のための世界計画」を提案する「人権教育の国連10年フォローアップ決議(2004/71)」が無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

同「人権教育のための世界計画」では、終了時限を設けずに3年ごとのフェーズ及び行動計画を策定。第1フェーズ(2005~2007年)は初等中等教育がテーマ。

2004年7月 上記決議をエンドースする経済社会理事会決定が無投票で採択され、国連人権高等弁務官事務所及びユネスコが行動計画を起草。

2004年12月 「人権教育のための世界計画」実施を定めた「人権教育のための世界計画決議(A/RES/59/113A)」が第59回国連総会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

2005年7月 行動計画改訂案の採択等を定めた「人権教育のための世界計画決議(A/RES/59/113B)」が同国連総会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

2007年9月 「人権教育のための世界計画」第1フェーズ行動計画の2年(2008~2009年)延長を定めた「人権教育のための世界計画決議(A/HRC/RES/6/24)」が第6回人権理事会において無投票で採択された。

2009年10月 「人権教育のための世界計画決議(A/HRC/RES/12/4)」が第12回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

第2フェーズ行動計画(2010~2014年)は「高等教育のための人権教育」及び「教育者、公務員、法執行者や軍隊への人権教育プログラム」がテーマ。

2010年10月 第2フェーズ行動計画を採択する「人権教育のための世界計画:第2フェーズ行動計画採択決議(A/HRC/RES/15/11)」が第15回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

2013年9月 「人権教育のための世界計画決議(A/HRC/24/15)」が第24回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

第3フェーズ行動計画(2015~2019年)は、第1及び第2フェーズの履行に係る努力の強化をすると同時に、「メディア専門家及びジャーナリストへの人権研修の促進」がテーマ。

2014年9月 第3フェーズ行動計画を採択する「人権教育のための世界計画:第3フェーズ行動計画採択決議(A/HRC/27/12)」が第27回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

2018年9月 「人権教育のための世界計画決議(A/HRC/RES/39/3)」が第39回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

第4フェーズ行動計画(2020~2024年)は「青少年のための人権教育」がテーマ。

2019年9月 第4フェーズ行動計画を採択する「人権教育のための世界計画:第4フェーズ行動計画採択決議(A/HRC/RES/42/7)」が第42回人権理事会において無投票で採択された(我が国は共同提案国)。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/kyoiku/index.html

3. 日本の内政ー文科省と法務省の場合ー

 内政でも「人権教育のための国連の10年」に沿う人権教育政策が展開された。しかし、内政でも「人権」観は分裂した。例えば、文科省と法務省等。

(1)文科省

(a)学習指導要領(小学校)・・・「人権」というタームが登場しない。

参考資料)https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_01.pdf

(b)「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」(2008年)・・・ヨーロッパ評議会の人権教育研究の成果が反映された。

参考資料)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/024/report/08041404.htm

 以上から文科省内でも「人権」観に差異があり分裂があることを確認出来る。

(2)法務省ー「人権教室」の場合ー

 法務省の「人権教室」の「人権」観は、次のように「人権=思いやり」である。

 人権教室は、いじめ等の人権問題について考える機会を作ることによって、相手への思いやりの心や生命の尊さを体得すること等を目的とした啓発活動であり、全国の人権擁護委員が中心となって実施しています。

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00100.html

(3)「人権=思いやり」観への研究者の批判ー人権教育研究者や国際法学者ー

(a)福田弘+阿久澤麻理子「対談 人権は「思いやり」や「やさしさ」?」、『部落解放』第488号、2001年7月。

(b)藤田早苗『武器としての国際人権―日本の貧困・報道・差別―』集英社新書、2022年。

4. 内閣の責任

(1)内閣とは?

〔行政権の帰属〕

第六十五条 行政権は、内閣に属する。

〔内閣の組織と責任〕

第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm

(2)人権教育の国家の責任ー国連の「ウィーン宣言及び行動計画」第33条(1993年)ー

 33. The World Conference on Human Rights reaffirms that States are duty-bound, as stipulated in the Universal Declaration of Human Rights and the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights and in other international human rights instruments, to ensure that education is aimed at strengthening the respect of human rights and fundamental freedoms. The World Conference on Human Rights emphasizes the importance of incorporating the subject of human rights education programmes and calls upon States to do so. Education should promote understanding, tolerance, peace and friendly relations between the nations and all racial or religious groups and encourage the development of United Nations activities in pursuance of these objectives. Therefore, education on human rights and the dissemination of proper information, both theoretical and practical, play an important role in the promotion and respect of human rights with regard to all individuals without distinction of any kind such as race, sex, language or religion, and this should be integrated in the education policies at the national as well as international levels. The World Conference on Human Rights notes that resource constraints and institutional inadequacies may impede the immediate realization of these objectives.

https://www.ohchr.org/en/instruments-mechanisms/instruments/vienna-declaration-and-programme-action

 「内閣」には「行政権」がある。「内閣」の「首長」は、「内閣総理大臣」である。従って「行政権」による「人権」観の分裂を前提にした人権政策の一貫性や整合性の欠如の最終的な責任は、内閣総理大臣にある。

5. おわりに

 1995年以降、外務省は積極的に人権外交を展開して来た。その「人権」観は国際人権基準に依拠したものである。

 他方、内政では「人権」観は分裂している。同じ文科省でも人権教育政策の指針は国際人権基準に依拠したもので、学習指導要領(小学校)では確認出来なかった。また、法務省の「人権」観は「人権=思いやり」であり、ライツやフリーダムを感情に矮小化する可能性もあり、国際人権基準に依拠したものではない。

 以上から日本の外交と内政では「人権」観が分裂している可能性がある。これは国家の行政権力のセクショナリズムによる分裂を意味する。この分裂は国家の「行政権」の二重基準を意味する。従ってこの分裂の解決策は、新しい日本の国家観とも関係している。

 新しい国家観の一つの方向性は、国際人権基準を内政にも厳格に適用することではないか?

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