人権規定の個人間の人権侵害への適用ー人権の私人間効力とはー

1. はじめに

 「いじめ」や「虐待」等のように日本には個人間の人権侵害もある。法的には個人間の人権侵害は、「人権の私人間効力」の問題として捉えることも出来る。

 「個人」は人間一般を指す語であり、その中には公的立場にある「公人」と私的立場にある「私人」が含まれる。従って、「私人=個人」ではなく、「個人」のうち公的権限を持たない者が「私人」である。

 法規範とは対照的に、日本の「文化」や「生活習慣」には人権と整合的でない側面もある(法規範と社会規範の乖離)。例えば、「タテ社会」、「理性」でなく「感情」や「空気」の重視、「プライバシー」の観念の欠如のような人権感覚の欠如、私人間の人権侵害に焦点を当てないメディアや学校の情報操作等。このような日本の「文化」は、人権を前提にするユネスコの「文化的多様性」と整合的ではない(https://www.mext.go.jp/unesco/009/1386517.htm)。

 では日本で発生している「私人」である個人間の人権侵害には、日本国憲法等の人権規定は適用されるのか? 

2. 人権擁護推進審議会答申(1999年)ー国民相互間の人権侵害ー 

 人権は,「人間の尊厳」に基づく権利であって,尊重されるべきものである。しかし,現実には,人々の生存,自由,幸福追求の権利,すなわち人権が,公権力と国民との間のみならず国民相互の間でも侵害される場合があり,その一つの典型が不当な差別であることは,広く認識されるに至っている。このような人権侵害とされるものの中には,人権と人権が衝突し,その衝突状況を慎重に見極めて人権侵害の有無を決すべきものもあるが,多く見られるのは,不当な差別のような一方的な人権侵害である。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/jinken/06082102/016/008.htm

3. 人権の私人間効力とは?

 日本国憲法の基本的人権規定の「自由権」は、基本的に「国家からの自由」を意味した。しかし、その後、企業、労働組合、経済団体、職能団体等の私的団体のような「社会的権力からの自由」も問題になり始め、人権の私人間効力が本格的に議論されるようになった。

 主な人権の私人間効力説としては、①間接適用説と②直接適用説がある。

 ①間接適用説とは、公序良俗に反する法律行為は無効であることを定める民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨を取り込んで解釈・適用するものである。②直接適用説とは、人権規定を私人間にも直接適用するものである。

 しかし、1970年代には最高裁で人権規定の直接適用説が退けられる場合もあった。例えば、企業の「採用の自由」と「信条の自由」を巡って争われた三菱樹脂事件の最高裁の判決である。

4. 人権の私人間効力の対象外としての「部分社会」ー例えば、大学ー

 「部分社会」論とは、「団体の自治」を重視する法理で、大学に限らず広く適用され、私人間でも人権規定の効力が排除される傾向があった。

 1970年代以降、日本の裁判所は昭和女子大学事件、特に富山大学事件で、大学等を「部分社会」と見なし、憲法や国際人権法の人権規定の効力の対象外にしようとした。

 しかし、近年では、「部分社会」論を広く適用すると人権侵害を放置する結果になるとの批判もあり、裁判所は「部分社会」論の適用をより限定的に解釈する傾向があると指摘されている。

 2000年頃の日本の大学、特に「権力関係としての教育関係」が学部よりもより一層直接的な大学院の場合では、人権が無い世界も存在した(一種の奴隷状態)。しかも、当時の独立性が確保されていない既存の大学付属の「カウンセリングセンター」等も、人権侵害の救済機能が全くなく、救済の可能性が完全に断たれる場合もあった。もし「声」をあげた場合、社会的権力等によって報復されて、「二重被害」に遭い致命傷を負うリスクもあった。ここに「部分社会」論の限界もある。

 しかし、近年では、日本の大学でも「人権侵害の相談窓口」が設置される例もある。例えば、日本大学法学部の「人権相談オフィス」である。

 学生生活を送って行く過程で,差別的な取扱い,いじめ,不快な言動,セクハラやアカハラなどの相談を受け,問題の解決に専門的に対処する『人権相談オフィス』が設置されています。

https://www.law.nihon-u.ac.jp/life/consult/human_rights/

 人権相談オフィスは、相談を受け付ける機関及び相談者との面談を行う場所として設置されています。
 学内外の関係分野の専門家を中心として構成された人権アドバイザー(※)が、人権相談オフィスでの面談を通じて人権侵害を受けた方の保護・救済を中心に問題解決に当たります。
 (中略)
 ※人権アドバイザー・・・弁護士、医師等

 【連絡先】
虎門中央法律事務所内 日本大学人権相談学外窓口担当弁護士

https://www.nihon-u.ac.jp/about/effort/human_right/information/

 現段階では情報がないので、同オフィスの人権侵害の救済機能を客観的に評価出来ない。しかし、大学によっては相談窓口が設置されても、救済機能を十分に果たしていない場合もあると指摘されている。

 その場合、2000年頃と比較すると状況は改善されている可能性もあるが、司法的、制度的には被害者が「泣き寝入り」を強いられる構造が依然存在していると言える。

4. おわりに

 個人間の人権侵害には、人権の私人間効力が適用される場合もある。

 また、1980年代半ば以降、国際人権法の理論と実践の展開によって、人権保障のための国家の多面的義務が一般化されるようになった。特に人権の私人間効力では、人権の国家の保護義務が重要である。

 私人間としての個人間の人権侵害や大学等の「部分社会」での被害者の「泣き寝入り」等に対して、国家がどのように保護義務を果たすべきかは、今後の日本社会の重要な課題である。

<参考文献>

 申惠丰『国際人権法ー国際基準のダイナミズムと国内法との協調ー(第2版)』信山社、2016年。

 樋口陽一『六訂 憲法入門』勁草書房、2017年。

 芦部信喜[高橋和之補訂]『憲法(第8版)』岩波書店、2023年。

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