1. はじめに
いじめ等のように日本にも個人間の人権侵害がある。法的用語では個人間の人権侵害は、「人権の私人間効力」の問題である。個人間の人権侵害にも、日本国憲法等の人権規定は適用されるのか?
2. 人権擁護推進審議会答申(1999年)ー国民相互間の人権侵害の指摘ー
人権は,「人間の尊厳」に基づく権利であって,尊重されるべきものである。しかし,現実には,人々の生存,自由,幸福追求の権利,すなわち人権が,公権力と国民との間のみならず国民相互の間でも侵害される場合があり,その一つの典型が不当な差別であることは,広く認識されるに至っている。このような人権侵害とされるものの中には,人権と人権が衝突し,その衝突状況を慎重に見極めて人権侵害の有無を決すべきものもあるが,多く見られるのは,不当な差別のような一方的な人権侵害である。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/jinken/06082102/016/008htm
3. 人権の私人間効力とは?
日本国憲法の基本的人権規定の「自由権」は、基本的に「国家からの自由」を意味した。しかし、その後、企業、労働組合、経済団体、職能団体等の私的団体のような「社会的権力からの自由」も問題になり始め、人権の私人間効力説も登場した。
主な人権の私人間効力説としては、①間接適用説と②直接適用説がある。
間接適用説とは、公序良俗に反する法律行為は無効であることを定める民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨を取り込んで解釈・適用するものである。直接適用説とは、人権規定を私人間にも直接適用するものである。
しかし、1970年代には最高裁で人権の私人間効力説が退けられる場合もあった。例えば、民間企業の採用の自由と信条の自由を巡って争われた三菱樹脂事件の最高裁の判決である。
4. 私人間効力の対象外としての「部分社会」ー例えば、大学ー
「部分社会」論とは、私人間でも団体の自律性という別の要請によって、人権規定の効力を排除する法理である。1970年代以降、日本の裁判所は昭和女子大学事件、特に富山大学事件で、大学等を「部分社会」と見なし、憲法や国際人権法の人権規定の効力の対象外にしようとした。しかし、近年、裁判所は大学等の人権侵害を放置するとして「部分社会」論を採用しなくなっているという指摘もある。
4. おわりに
個人間の人権侵害にも、「人権の私人間効力」説が適用される場合もある。
また、1980年代半ば以降、国際人権法の理論と実践の展開によって、人権保障のための国家の多面的義務が一般化されるようになった。特に人権の私人間効力では、人権の国家の保護義務が重要である。
個人間の人権侵害に対して、国家がどのように保護義務を果たすべきかは、今後の日本社会における重要な課題である。
<参考文献>
申惠丰『国際人権法ー国際基準のダイナミズムと国内法との協調ー(第2版)』信山社、2016年。
樋口陽一『六訂 憲法入門』勁草書房、2017年。
芦部信喜[高橋和之補訂]『憲法(第8版)』岩波書店、2023年。