1. 私の使命(Mission)
1993年、国連は世界人権会議で人権の普遍性、相互不可分性、相互依存性、相互関連性を(再)確認した。日本政府もリアルタイムで応答した。
国際人権に対する人権アーキテクトの使命は、日本社会では「思いやり」や「優しさ」等のような心情的・情緒的・道徳的な特殊価値に回収されがちな「人権」の言語を正常化させ、国際基準の普遍的価値に基づく「人権文化」を基礎にした「人権秩序」を確立することにある。
この使命を達成するため、私は現在、人権の「理念・制度・政策・事実・教育」の全層を統合する包括的な人権基礎研究プロジェクトを構想・推進している。
私はミクロの次元とマクロの次元の両方を大切にしている。現段階ではミクロな次元での「人権秩序」の確立を重視している。また、現段階では日本社会全体で「人権秩序」を実際に確立する段階には全く到達しておらず、基礎研究に集中している。
2. プロジェクトの全体像とロードマップ
本プロジェクトは、思想的なマクロレイヤーから、法制度・行政政策のメゾレイヤー、そして現場の教育実践というミクロレイヤーまでを架橋する4つの柱から構成されている。
[理念・思想] 世界人権宣言の思想的背景(R.カサン/J.マリタン)や「人間の尊厳」の研究
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[制度・政策] 国連の世界人権宣言の成立過程と日本の冷戦期〜冷戦後の人権教育政策の研究
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[事実・受容] 日本における「人権の偏向受容」とアイデンティティ危機の関係の研究
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[教育・実践] ヨーロッパ評議会の「包括的人権教育」の「日本的調整」と社会実装
Ⅰ. 人権理念・思想研究(マクロ・レイヤー)
日本の国内における「人権」観の分裂、忌避感、あるいはアレルギーを乗り越えて、合意形成を促進するための条件を整備する。
- ルネ・カサンの人権思想研究: 世界人権宣言の最も重要な起草者であるルネ・カサンの人権思想を解明し、日本の国際人権法学界におけるネオ・トミストのJ.マリタンの影響説を再検討する。
- 「人間の尊厳」の研究 : 「人間の尊厳」の実質的平等をA.センとM.ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチを比較して研究する。その際、「人間の尊厳の閾値」の視点からのケイパビリティのリスト化のメリットとデメリットを検討する。
- 「個人の尊重(尊厳)」の「人間の尊厳」への再定位: 日本国憲法第13条の「個人の尊重」を、国際人権基準である「人間の尊厳」へ再定位するメリットとデメリットを学際的に研究する。
- 普遍的価値と特殊的道徳の止揚: 普遍的価値としての人権が、日本固有の道徳的心情(思いやり等)へ特殊価値化される構造を検討し、堀尾輝久東大名誉教授の教育思想や、R.ローティの情操教育論、服部久美恵氏の法哲学の知見を手掛かりに道徳を再定義して人権との関係の中に再定位する。
Ⅱ. 人権法制度・政策研究(メゾ・レイヤー)
国連の人権レジームと日本国内の行政の受容を研究し、「政策の系譜」をマッピングする。
- 世界人権宣言の審議・成立過程: 「ルネ・カサン(フランス政府)案」における「人間の尊厳」と「教育」と「公共」の定義と関係を研究する。
- 日本の人権教育政策の研究: 国連の世界人権会議(1993年)前後における日本の人権教育政策の形成と展開を、①外交(外務省)ー内政(法務省・文部省等)間差異、②内政間差異、③各省庁内差異、④各地方自治体間差異、⑤各自治体内差異を、特に「教育の中立性」を中心に解明する。
Ⅲ. 人権の事実・偏向受容研究(社会構造の分析)
なぜ日本社会では人権が歪んだ形で受容、あるいは「イデオロギー」化(K.マンハイム)してしまうのか、その原因を検討する。
- 能力主義と受容主体的アイデンティティ: 「人権の偏向受容」を、社会空間上の能力主義(公正)的移動が主体のアイデンティティ条件に与える影響を中心に学際的に研究する。
- アイデンティティの破壊と人権の危機: 社会空間上の能力主義(公正)的移動によるアイデンティティの暴力化が招来する「人権の危機」への規範理論的な応答の可能性を、A.センの「複数モデル」とCh.テイラーの「複合モデル」の比較を通して検討する。
Ⅳ. 人権教育実践研究(ミクロ・レイヤー:社会還元)
本プロジェクトの最終段階として、研究成果を社会に還元し、「人権文化」を定着させる実践的枠組みを開発する。
- 包括的人権教育の「日本的調整」: 文科省の『第三次手引き』でも参照されたヨーロッパ評議会の包括的人権教育教材(「コンパス」「コンパシート」)に、ルネ・カサンの人権思想研究の成果を反映させて改良し、国内の学校教育と社会教育、メディア、行政における「人権=思いやり、優しさ」観を正常化し、国際人権基準の人権教育を適用する。その際、「日本的調整」を、人権と日本国民が大切している「思いやり」や「優しさ」と区別した上で、人権を基礎にそれらを再定義して再定位して行う。
- 世俗的「ラブ」によるアプローチの開拓: 社会空間上の能力主義的移動によるアイデンティティの危機や破壊という深刻な人間問題を「人権問題」として再定義して、それを包摂するアプローチとしての世俗的「ラブ」の可能性を研究する。その際、キリスト教等のような非世俗的「ラブ」もオプションや世俗的「ラブ」の展開の選択肢として研究する。その際、「ラブ」と「思いやり」や「優しさ」の異同も明確にする。