1.はじめに
1993年、国連は世界人権会議で「ウィーン宣言及び行動計画」を採択し、人権の普遍性を確認し、人権政策を人権教育に重点を置いて展開した。
それに日本政府も応答し、1999年に人権擁護推進審議会答申を出し、それを重要な基礎の一つとして人権教育政策を展開した。
国連の人権政策と比較すると、日本政府の人権政策は人権教育・啓発を中心にしている(一種の「人権教育・啓発中心主義」)。
また、日本政府の人権政策・制度には不完全性もある。更に日本政府や自治体の人権教育政策は、国際人権基準の「教育(education)」とも異なる場合も少なくない。国際法学者の藤田早苗も、日本の人権教育政策をそのように認識、評価して批判している(藤田早苗『武器としての国際人権ー日本の貧困・報道・差別ー』集英社新書、2022年、第1章)。
しかし、人権政策・制度を完全化しても「限界」もある可能性はある。その一つは「文化」の次元である。「文化」の次元を人権基準で改革する場合、国連やユネスコが重視するように人権教育が重要である。しかし、その人権教育は、国際人権基準の「教育」である必要がある。
人権教育を不可欠な構成要素とする国際人権基準の「教育」の前提としての日本の人権制度の不完全性とは?
2.日本政府の人権制度の不完全性ー国際人権条約の個人通報制度と「パリ原則」を中心にー
1948年、国連は「人間の尊厳」を基礎にした世界人権宣言を採択した。その重要な起草者は、ノーベル平和賞を受賞したルネ・カサンである。
同宣言は、国際人権や現代人権の原点であり、通説的には「国際慣習法」と評価されている。しかし、宣言であるため、法的拘束力がなかった。
1966年、国連は法的拘束力がある国際人権規約を採択した。同規約の採択は、「人権革命」とも評価されている。しかし、当時は米ソ冷戦期で人権の評価は分裂していた。その結果、同規約はA規約とB規約に分裂して採択された。
しかし、その際、選択議定書で個人通報制度も採択された。個人通報制度とは、国内の司法制度で救済されない人権侵害を国連に通報出来る制度である。その後、国連は複数の国際人権条約を採択した。
国際人権法学者の申惠丰によれば、その後の国際人権条約も個人通報制度を搭載している。
2011年には子どもの権利条約にも、個人通報手続に関する選択議定書(2011年)が採択された。国家の制度受諾というハードルがあるとはいえ、制度的には、準司法的(quasi-Judicial)手続である個人通報手続が、9つの国連人権条約のすべてに具備されたことになる。
申惠丰「国連人権条約における個人通報手続の一般化」、『新国際人権法講座』第4巻、信山社、2024年、p.175。申はプロテスタント系青山学院大学法学部ヒューマンライツ学科(2022年4月開設)の教員である。https://www.aoyama.ac.jp/faculty/law/dh/faculty.html
しかし、現在も日本政府は個人通報制度には受諾していない。
また、1993年の国連の世界人権会議では、「パリ原則」も承認された。「パリ原則」とは、政府とは独立した人権救済機関の創設に規定した原則である。同原則への政府の応答は、国連のSDGsのグローバル指標でもある。しかし、現在でも日本政府は「パリ原則」に対応した法制度を整備していない。
それに対して日本弁護士連合会は、日本政府に「パリ原則」に対応した法制度の整備を要請している。https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/human_rights_organization.html
ジャーナリズム界でも朝日新聞は、その未整備を報道して解説している。
https://www.asahi.com/sdgs/article/15055296?msockid=39edb19f53ce6b2e0139a69e52966a80
しかし、管見によれば、NHK(特にラジオ)をはじめ日本のジャーナリズム界やマスコミ界等は、その未整備を積極的には報道していない。恐らくそれは東京都にあるラジオ局であるJ-WAVEのニュース番組である「ジャム・ザ・プラネット」等にも妥当する。その理由や原因等としては、純粋な「無知」から意識的な無視や無関心による意識的な「情報操作」までの幅がある。それは無意識的「偏向」から意識的「偏向」までもの幅でもある。
NHKは「公共放送」である。法的拘束力がある放送法によって「公共放送」は「真実」を放送するように規定されている。もしNHKがSDGsを意識的、意図的、恣意的に「偏向」したり「歪曲」したり「操作」したりして、「真実」をオーディエンスに放送していない場合、証拠が残る形で公然と放送法に違反している可能性もある。個々の事象の「ピックアップ基準」等のような番組の編成基準や方針等が問題になり得る。その場合、オーディエンスを含む日本国民はNHKの放送をモニターする必要もある。
また、企業等も国連のSDGsを地球温暖化等の「環境」問題に「偏向」して応答する傾向がある。しかし、多くの場合、その「偏向」の「アカウンタビリティ(説明責任)」は果たされていない。
3.おわりに
日本政府の人権制度の不完全性は、個人通報制度や「パリ原則」に対応した法制度の未整備にある。また、政府だけでなく企業等もSDGsの全体像を正確に理解して受容、展開せず、「偏向」している。この点に日本のSDGsの重要な課題もある。日本国民等も問題を変換せずに、正確に適切に課題を認識、評価する必要がある。